解剖室 「へたれ電源のナゾ」

 いつの間にか、職場のパソコンが時々、停止するようになった。
 うぃ〜ん、カラカラカラ・・・と、HDDが回り始める時の音がする。それが何度も繰り返される事もあった。
 アクセスランプがつきっぱなしになり、それ以後、何も操作を受け付けなくなる、といった症状だ。

 WindowsではなくBIOS設定画面でも現象が発生したので、OSとは無関係と考えられる。節電機能で
HDDのモータを止める設定があるが、それはOFFになっていたから、節電機能も関係ない。

 電源コネクタの接触不良も考えられたが、確認の結果、問題なかった。ちなみに別のパソコンで、HDDに
取り付ける冷却ファンの電源中継コネクタで、接触の悪いやつ(ゆるゆるガバガバ)があった。モータが動いたり
止まったりする症状があったから、今回も同じじゃないかと思って確認したわけ。もっとも、ファンも中継コネクタ
もつけてなかったけど。

 ちょうど自分のパソコンのHDDが壊れた時期と重なっていたせいか、最初は、こいつもHDD不良かと
思って、新品と交換した。しかしそれでも現象は発生した。うーむ、これは電源かマザーボードか。切り分けが
必要だ。

 仕事にならないもんだから、ソフト屋がブリブリ文句を言っている。こんな時、われわれハード屋は、パソコン
の修理をしなければならない。

 HDDが動いたり止まったりしているので、まずは電源5Vと12Vをオシロで観測した。電圧が落ちていたら
電源に問題があると考えられる。
 HDDの電源コネクタに、細いラッピング線を挟み込み、そこから5Vと12V、GNDを引き出してオシロの
CH1とCH2に接続した。電圧が落ちたらトリガがかかるように設定した。

 現象はいつも発生するわけではなく、オシロをつないで、その瞬間を待ったのである。
 むかし岩通のロジアナを使っていたが、これはトリガがかかるとピッと鳴るので、トラブルが発生するまで
他の作業をしていればよい。しかし同じ岩通のオシロ(BRINGO)は、音がしないので、画面をじっとにらんで
いなければならない。

 CH1が12Vピン、CH2が5Vピンを見ている。
 右側の波形は、CH2の電圧軸を拡大したもの。通常5Vのはずが4Vまで落ちている事がわかる。



 この波形から、コンデンサの容量ぬけなどを推測した。瞬間的にしろ、4Vまで落ちるのは明らかに異常だ。
 パソコンの安物電源だから、こんなもんじゃないのかなあと迷った瞬間もありましたけどね。でもそんな事はない。
他の正常なパソコンでも測定したら、こんなに波打ったりしてなかった。直線だった。

 電圧が落ちるとHDDモータが止まり、すると電流が減るから電圧が上がる。モータが回り始める。電流が増え
電圧が落ちてモータが止まる。たぶんHDD内のモータドライバかコントローラに電源電圧検出回路でも入って
いるのだろうと、ST社のホームページを探したりしてみた。


 もう4年ぐらいほぼ毎日、朝から夜まで電源を入れてあるパソコンだから、そろそろ電源がへたっても不思議
じゃないかもねーなどと思った。

 電源ユニットは、安全性が重要だからあまりさわりたくない。それにここは、タバコまみれだから、そんな汚い
モノは捨てたくなる。だから新品を注文した。ニプロンのやつ、高い。型番はPCSA-300P-X2Sです。このへん。

 翌日、新しい電源が届いた。取り付けが済んだ後、へたれ電源をバラしてみた。



 中身は、なんかショボい。放熱板や、ワット数の大きい抵抗に電解コンデンサが密着して実装されているなど
寿命に対する配慮が欠けているように思う。
 右側の写真で、電解が3本並んでいる部分があるけど、太い抵抗まで密着してるんだもん(写真では見えない)。
その抵抗のリードに付着したボンドが炭化していた。これじゃあ、電解を焼いているようなもんだね。

 あー、もうー、こんなクソ電源は、死刑ダ!!
 ←バラした後、ほったらかしにしてる様子。

 そのへんにつるして、さらし者にしてから写真を撮り、それから捨てようと思った(笑)。


 ここで・・・ちょっと待てよ、一応、原因を究明しなくてはと思いとどまり、電解の容量抜けを確かめてみようと思った。
 出力部分の電解を取り外して、テスターで当たってみよう。そうやって電解を1本ずつ取り外していた時のことだった。
アレ?この1本だけ足の半田がゆるくないか?
 パターンをたどると、3本は5V系だったが、そのゆるい1本は12V系だった。

 ← ○印を付けた部分がソレ。この写真は修正後のもの。

 なんだよ、半田割れじゃないか・・・。片面基板では、ありがちな故障。
 現象が出たり出なかったり、暖まってくると現象が出たりしていたが、これは半田割れの典型的な症状だ。


 問題の電解C27と、さっきの3個並び電解に密着してる抵抗(ボンド焦げ)の写真を次に示します。



 C27近辺の回路を調べてみた。すると次のようになっていた。



 この出力部の回路は、コイルをはさんで電解が前後にくっついている。つまりπ型のフィルタですな。
 MOSFETがスイッチング出力して、それをコンデンサに蓄えて、ノイズをとる為にコイルを通している。

 もしC27が断線すると、C28の充電は10オームの抵抗とコイルを通じて行われる事になるので、負荷が
重くなるとヤバイ。その時定数により、あたかも電解の容量抜けのようにも見えたのであった。


 なんだかなあ・・・電源だから手の出しようがないと思って、新品を買ったのだが、もっと早く気づけばよかった。
でもよーく見ないとわからなかったよ。半田割れ。最初に分解して見たときは、じっくり見たはずなのにわからな
かった。

 でも新品交換というのは、安心感を与えるから、悪いともいえないと思います。

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